スナフキンママのライフスタイル

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世界堂書店②私はあなたの家で暮らしているけれど、あなたはそれを知らない

完全ネタバレの書評です。

 

「私はあなたの家で暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」byキャロル・エムシュウィラー

 

<あらすじ>

 「私はあなたの家で暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」

 この衝撃的な文章から始まる本編は、気がつかれずにどこかに潜む達人の「私」とそっくりな「あなた」を「私」が見つけ、「あなた」の家にこっそりと住み着いていく過程とその終わりを密度の高い描写で描ききっている。

 「私」はデパートや書店に潜んで暮らしていたが、ある日工場で働く貧しくみすぼらしく人目につかない「私」そっくりな女性を見つけ、その家に忍び込む。始め気がつかれないように身を潜めていた「私」は段々と大胆になり、その家に「私」がいる痕跡を「あなた」が気がつくほどに残しはじめる。だがまるで死んだように生きている「あなた」はその事実に見て見ぬ振りをしようとする。「私」は生彩のない「あなた」の生活にリアリティを与えるために派手な服だけを「あなた」のクローゼットに残す。それだけでなく、貧しい男に目をつけ、二人を恋仲にするためにいたずらをする。男は「あなた」の家にやってくる。策略通り「あなた」と「男」はついに一線を越える。ところがつまらないことで「あなた」と「男」は喧嘩をしたようだ。男は家を出て行く。「あなた」は出した事のない大声を出して「男」を引き止める。「私」はついに「あなた」が「私」と一線を画したリアルを生き始めたことを悟り、ひっそりと去る。

 

<面白さのポイント>

見知らぬ誰かが自分の家で暮らしている。

他人の家に気づかれぬように住み着く。

この、エキサイティングなアイディアが、絶妙な文章の巧みさで妙なリアリティとファンタジーの間にある物語に仕立て上げられている。読者はこの奇妙な世界に一瞬にして引き込まれ、息つく暇もなく最後までつき合ってしまう。

「私」「あなた」「男」は作中で何度も強調されているようにみすぼらしく影のように生きている男女。運に見放されたような三人の最後の希望であり、リアルとつなぐもの、それが単純だけど、「愛」。この物語で描かれている愛は、「人を求める心」とでも呼ぶべきものかもしれない。物語にシニカルに描かれたその事実が、奇妙な魅力となって読者の胸を打つ。

 

<評価>

星5つの名作。