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(完全ネタバレ)書評『名を刻む死』

完全ネタバレの書評です。

タイトル:名を刻む死

著者:米澤穂信

評価:5

あらすじ:

①中学三年生の檜原京介は11月4日に死んだとされる田上という62歳の死の第一発見者となった。彼はインタビューを受けながら、「いつかこんなことになると思っていました」という一言を必死で飲み込んでいた。彼は田上がいつか死ぬ事を予期していた。田上は死ぬ前に「私は間もなく死ぬ。願わくは、名を刻む死を遂げたい」という日記を残していた。

②京介のもとに太刀洗真智というフリーアナウンサーが現れる。彼女はこれから田上の息子のところにインタビューに行くという。京介は一緒に連れて行って欲しいと頼み込む。太刀洗真智は京介に田上の生前の新聞への投稿を見せる。

③新聞の投稿は「元会社役員・田上良造」が市政に意見を寄せる投稿がコピーされていた。もう一つ、「無職・佐々木直也」の投稿に赤丸がついていたが、京介に太刀洗の真意は分からなかった。

④京介と太刀洗は息子のところにいく。息子は下品な輩で、京介は嫌な思いをする。息子は父親である田上の人格をののしり、最後に会ったのは11月3日であると言う。太刀洗は食事代を包み、領収書を11月26日付けで受け取る。帰り道に京介は太刀洗に「名を刻む死」とはなんであるかを尋ねる。太刀洗はそれを、「肩書きのある死」のことだと推理する。新聞の投稿からは「元会社役員」という肩書きに田上がこだわっていたことを読み取れる。また、ある経緯から、息子は最後に危篤の田上に会っていたが、見殺しにしていたことに思い当たる。

⑤最後、車から降りる時、京介は太刀洗に「名を刻む死」に関する推理はどこから来たのか尋ねる。太刀洗は京介の父親に全て聞いた事を話す。死ぬ直前、田上は社長である京介の父親の元に来て、名前だけ会社の社員にしてくれないか頼んだという。田上は「無職」として死ぬことが耐えられなかったのだ。父親は当然その理不尽で無理な願いを断った。だが京介は自分は田上を見殺しにしたのだと罪悪感に苛まれていた。太刀洗は京介に、「田上良造は悪い人だから、ろくな死に方をしなかったのよ」と言い、その罪悪感を取り払おうとする。

感想:「名を刻む死」といういかにも不思議な響きの死がなんのことなのか整然と順を追って明かされる。それと同時に生前の個人の浅ましい人格が示されるが、それでもその死に責任と罪悪感を感じる中学生のいかにも純粋な心持ちに打たれると同時に、その心を救おうする太刀洗真智の最後の一言に読者は救われる。「名を刻む死」=「肩書きのある死」という発想に、まずは脱帽。