スナフキンママのライフスタイル

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(完全ネタバレ)書評『恋累心中』

完全ネタバレの書評です。

タイトル:恋累心中

著者:米澤穂信

評価:4.5

あらすじ:

①週間雑誌の記者である主人公は三重県で起きた高校生の心中事件の取材のために三重に向う。現地ではコーディネーター役を任された太刀洗真智と落ち合った。二人の死因は未発表だったが、女子は崖の上で喉をついて、男子は川で、橋脚にひっかかって見つかった。残されたノートにはこの世を憂いていた二人の遺書が書かれ、一方で異なるページにぐちゃぐちゃの字で「たすけて」と書かれていた。

②二人はまず「下滝」と「春橋」という二人の教師に代わる代わるインタビューを行う。下滝からはいじめはなかった程度の確認しかとれなかったが、「春橋」は、二人が死ぬ方法を探していた、二人は交際していたが何か悩みがあり、更にそれに対する現実対処能力が引くすぎた、など確認した。最後に太刀洗真智は不自然に理科教師をしている晴橋に備品管理について確認を行った。

記者クラブにて主人公は女子が身内に無理矢理妊娠させられていた上大人に助けを得られなかったこと、二人の死体から「黄燐」という毒の中毒反応が出たことなどを確認する。夜、太刀洗真智と再び会い、その推理を聞く。太刀洗真智は二人は黄燐を飲んでおり、それは苦しくて死ににくい毒のため、苦しみのあまり男子は女子を救うために刺し殺し、自分は川へ飛び込んだのだと話す。そして、問題は黄燐の入手経路であると話す。

④翌日、二人は学校に張り込む。太刀洗真智が撮ったのは、警察に抱えられながら出てくる下滝だった。彼は前年に黄燐を使った発火装置を議員に送りつけていた。黄燐の残量が計算よりも少ないことが発覚する事を恐れ、二人の男女に黄燐を盗み出し服毒自殺することを示唆したのは下滝だった。全てが明らかになり、最後まで大人に裏切られ続けた二人の高校生の人生に主人公はやり切れなさを感じて終わる。

 

感想:

常に便箋の控えを携行し、亡くなった二人には丁寧な言葉使いを行い、早々に関係者にアポイントを取り、記者クラブに手を回して便宜をはかる太刀洗真智の能力の高さと真摯な取材態度が随所に織り込まれ読者はまずそこに「そうそう、それでこそ太刀洗真智」と頷きたくなる。しかし単なる心中であるはずの二人の死には謎ばかりがあり、読者の頭は整然と描かれた冒頭からはてなマークだらけになる。何故二人は心中しながら別の場所で見つかったのか、ノートに書かれていた「たすけて」の意味とは。しかしその答えはページをめくるごとに整然と解き明かされ、読者は伏線が回収された満足感を得られる。それとともに大人に裏切られる高校生という切ないテーマが全編で繰り返される。

一つ言う事があるとすれば二人の心中理由のそもそもの発端である妊娠させられたという部分はあまりクローズアップされない。また、犯人の下滝の人物像と爆発物を送ったというエピソードの関連性もあまり読み取れない。その部分が物足りなく感じられるが、これが米澤穂信の上品さにつながっている部分でもある。