(完全ネタバレ)書評『真実の10メートル手前』
タイトル:真実の10メートル手前
作者:米澤穂信
評価:4
あらすじ:
①主人公の新聞記者・太刀洗真智は後輩の新聞記者を伴い、「しなの」に乗り込む。後輩に取材の経緯を語ることから物語ははじまる。取材の経緯とは、ベンチャー起業フューチャーステアが経営破綻を起こし、立役者の兄妹のうち妹が失踪していることに関するものだった。太刀洗は妹のさらに妹から連絡を受け、姉を探して欲しいと頼まれる。手がかりとなった会話の録音には、「おばあちゃん家の近くにいる」「男性に介抱を受けた」「うどんみたいなのを食べた」という手がかりが残されていた。
②手がかりをもとに山梨の甲府にたどりついた二人の新聞記者はずばり彼女が最後に立ち寄ったほうとう屋に辿り着く。そこでオーダーをとってくれた男性の店員が彼女が最後に話したとされる外国人男性であることを幾つかの手がかりから看破し、太刀洗は彼女の車が店の裏手に止まっていることを聞き出す。
③車を見つけ、二人の新聞記者は近付く。途中で太刀洗は目張りをしていないか確認し、していることがわかり駆け出す。10メートル手前で、救急車のサイレンが聞こえてきて、安堵して立ち止まる太刀洗。しかし無情にも、彼女はすでに死亡していた。
感想:
そもそも主人公が彼女を探していたのは生前の彼女の人柄の良さと友人知人からの人望の熱さに感じ入るものがあったからであり、それは冒頭で示される。そのことが、最後に「死」という形で終わりを告げざるを得なかった彼女の生を偲ばせるキーファクターとなっている。推論自体はそうずば抜けて面白いものではないはずなのだが、どこまでも丁寧に描かれた世界が一人の人間の生と死を軽い物にしていないこと、そのことこそが読書の満足感を与えてくれる。
また、途中で外国人男性に尋ねられる新聞記者としての太刀洗の役割が単なる好奇心のみを満足させるものではなく、一定の正義に裏打ちされたものであることが物語に深みを与え、主人公の太刀洗に深みを与えており、そのことに読者は安心する。