スナフキンママのライフスタイル

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(完全ネタバレ)書評『綱渡りの成功例』

完全ネタバレの書評です。

タイトル:綱渡りの成功例

著者:米澤穂信

評価:4

あらすじ:

①とある夏の日、長野県南部の水害の中で戸波夫妻という老夫婦が救出された。戸波家を含む三軒の民家は並んで建っていたが、一軒は完全に土砂にのまれ、もう一軒も土砂の被害をうけ、戸波夫妻の家は無傷だったものの電線断裂による孤立を余儀なくされたのだった。救助の方法を探っていたレスキュー隊は水害から四日目、増水した川を渡っての救助を行うこととし、それは成功した。しかし他二軒の家人は助からなかった。

②レスキュー隊員の一人の大庭は父親が移動販売をしていた。救助から間もなくして大庭は戸波夫妻を映すテレビを見る。救助を待つ間、夫妻は息子に備蓄用にとすすめられて置いておいたコーンフレークを食べて待っていたという。夫妻はしきりに謝罪を繰り返し、「待っとるうちに食べやすうなりまして」と言って、コーンフレークを食べていた事を話した。

③大庭の前に意外な人物が現れる。大学の先輩である太刀洗真智だった。太刀洗真智はコーンフレークのことを調べていた。彼女の戸波夫妻のインタビューに大庭はつき合うことにした。インタビューで太刀洗真智が発した質問は意外なものだった。「コーンフレークに何をかけたのか」というのだ。だが戸波夫妻は信じられないほど動揺し、「牛乳」をかけたといった。夏場で、電線が断裂した家の冷蔵庫では牛乳は保存できない。そのため戸波夫妻は人気の絶えた隣家の冷蔵庫を借り、牛乳を保存したのだった。戸波夫妻はそのことに恐ろしいほどの罪悪感を持っていた。そして太刀洗真智に記事にすることは構わない、肩の荷が降りた、というのだった。

太刀洗真智は大庭に記事を書くという。少なくとも戸波夫妻は食糧を隣家から盗んだりはしなかった。そのような憶測が出回るくらいなら事実を記載する記事があった方が良いとも思えるからだった。大庭は何故、戸波夫妻が事実を告白したがっていたか分かったのかと太刀洗真智に尋ねる。太刀洗真智は「運が良かった」と言う。そう、これこそは綱渡りの成功例なのだと。

 

感想:

コーンフレークに何をかけたか。

この些細な謎をこんなにダイナミックに描けるのは米澤穂信しかいないに違いない。

最初から何を太刀洗真智が問題にしているのかヒントは随所にあるのに読者としてそれに気がつかなかった、まだまだですね。

戸波夫妻の罪悪感は同じ日本人として、とてもリアルです。願わくば現実にこのようなことがあった場合に彼らが糾弾されるような息苦しい国になってしまいませんように。